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2019年1月12日 (土)

『戦争の歌』 松村正直  笠間書院

「日清・日露から太平洋戦争までの代表歌」と、サブタイトルが付いている。

落合直文から窪田空穂らが詠んだ「戦争の歌」、51首をとりあげ、著者が

解説している。


昭和20年の敗戦以降、実質的な ? 「戦争の歌」は詠まれていない。

それは、太平洋戦争以降幸いにも日本に戦争が起こっていない所以でも

ある。しかし、先の太平洋戦争を体験した世代の人たちは今もなお、戦争の

歌を詠み続けている。そのことを忘れてはならないし、風化させては

ならないのだ。

    戦争のたのしみはわれの知らぬこと春のまひるを眠りつづける

                           前川佐美雄『植物祭』

    遺棄死体数百(すうひやく)といひ数千(すうせん)といふいのちをふたつ

    もちしものなし                 土岐善麿『六月』

    蘇聯機(それんき)の爆弾痕は小沼なしいづくより来し蟇(ひき)一つゐき

                 八木沼丈夫『遺稿 八木沼丈夫歌集』

    大き骨は先生ならむそのそばに小さきあたまの骨あつまれり

                             正田篠枝『さんげ』




前川佐美雄の歌は、「戦争を起こす人間や社会に対する批判や批評精神」

だと、著者は記している。この歌を含む5首が昭和22年の増補改訂版では

削除されている。


土岐善麿の歌は、回収されることなく戦場に残された兵の死体、即ち「遺棄

死体」。この歌は「中国軍兵士云々」よりも、わたしなどは、やはり

ヒューマニズム、反戦思想の歌だと思っている。


八木沼丈夫の子ども(娘)は、「未来」の会員の武井伸子さんで、現在も

短歌を作り、「未来」に発表している。800号記念特集号②(2018年10月号)の

エッセイには〈満州〉のことを綴っていた。


     私は「ふるさとは」と訊かれると返事に戸惑う。私の生まれ育った

    満州は今は中国、よその国で、「ふるさと」とは言い難い。

     しかし、同窓会などで熱を込めて歌われるのは満州唱歌「わたし

    たち」である。(略)


八木沼は、「満州短歌」を創刊し、「昭和5年に斎藤茂吉が満州を旅行した

際にも随行して各地を案内している。」 

武井伸子さんが過ぎし年に福岡歌会にいらした。その時、父君の資料を

頂いたことを思い出した。


正田篠枝の『さんげ』は、秘密出版 ?  されたらしい。それだけ当時は

検閲が厳しかったのだ。広島平和記念公園内にこの歌は刻まれている。


解説で著者の松村正直は下記のように記している。

 

    (略)

     私たちは歌を通じて歴史を知ることができる。また、歴史を知る

    ことによって、私たちの未来をより良く判断することもできる。そう

    した意味において、「戦争の歌」は単に過去のものではなく、私た

    ちの今後を考えるための作品でもあるのだ。


                      2018年12月10日 初版第1刷発行

                             1300円+税

 

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