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2019年1月 7日 (月)

歌集『燭の火』 佐竹澄子  いりの舎

今年(2018年)卒寿を迎えられた著者の『風露草』に続く第二歌集。

90歳になられたひとの歌をしみじみと読む。

     我が家の庭の枝ことごとく虎刈りにして空明るしと夫の喜ぶ

     賽の河原にあまた廻れる風車廻らぬひとつ手を添へ廻す

     思ひ出したやうに息子は現れて今日は電動歯ブラシ持ちくる

     昔からここにゐましたといふやうに山法師の木に蓑虫がゐる

     ジオラマの柵は夫が丹念に楊枝で作りゐき楽しげにして

     遺されし思ひは吾がすればよし夫よ明るく神に召されけむ

     夫逝きて三年を経たり淋しき歌は詠まじと思ふ青葉仰ぎて

     たまものはおのづとあらん吾の歌あるがままにぞ詠まんと思ふ

     お財布が冷蔵庫の中にありしなどこの頃われの不思議な行動

     ふるさとの筑後の川の堤にて蓮華 菜の花あふれ咲きたり


1首目の夫の茶目っ気がたのしい。

5首目の夫は、ジオラマの柵まで手作りをするような器用な人なのだ。

従って、1首目は未必の故意 ? に「虎刈り」にしたのかも知れない。

なんとも愉快な夫君であることよ。


3首目の息子の訪問も結句の「電動歯ブラシ」というモノによって、リアリティが

生じ、そこはかとない〈愛〉が根底にある。


6首目の「遺されし思ひは吾がすればよし」、7首目の「淋しき歌は詠まじと

思ふ」など、作者の健気さがいとしい。


9首目、「この頃われの不思議な行動」と客観できているから大丈夫。


10首目を読むと、ふるさとが「筑後」のようである。

そういえば、巻末の「大濠こども園」の歌28首とエッセイは、終戦時の

記録としても収めて良かったと思う。


       終戦後まもなく、博多港に旧満州からの引揚者の方達が帰国

      されました。父親はソ連に抑留され、大方は子供を何人か連れた、

      着の身着の儘の母子家庭でした。

       福岡の大濠練兵場の馬舎あとに二百五十世帯の方達が収容

      されましたが、その日から働かねばならないお母さん達の為に、

      私の叔母(叔父は牧師でした)は、そこに託児所を作ることに

      しました。 (略)


その託児所で2年あまりを著者は奉仕している。


      抑留の父待つ母子ら守らむと託児所に保母われの拙かりけり

      抑留の一人またひとり還り来ぬ、 軍兵(ぐんぺい)の父遂に還らず

      国敗れ貧しき園に汚れなき幼らよ蝶を追ひ風と戯る

                          解説 花山多佳子

                          2018年9月8日 発行

                          2500円+税

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