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2019年3月 5日 (火)

『わたしの秀歌散策』 宮本永子  柊書房

2004年から2017年まで13年間にわたって、毎月心に残った歌を

思いのまま鑑賞した120首を収めている。

いずれの歌も「朔日」誌上に連載していたもの。



     嘆きつつひとつまくらに寝をりしが夜明けの町にいでてゆく猫

                       総合誌「短歌」(04/1刊) 小池 光

この歌の鑑賞で右大将道綱母の「嘆きつつひとり寝る夜の明くる間は
いかに久しきものとかは知る」の本歌取りと思われる。と、した上で
〈本歌取り〉の考察をのべ、その結果「焼き直しではない新しい世界を
構築していると言えるが…」と書く。

かように、歌1首につき、その歌の鑑賞のみに終わらず、「本歌取り
とは何か」というところまで考察しているところが勉強になる。

     
           五百年蒔絵の中の漆黒を飛ぶ鶴ありて飛び続けをり

                       『渾円球』 (03/10刊) 高野 公彦

のっけから、古代ギリシアの医学者ヒポクラテスのことばを引用しての
鑑賞である。豊富な知識を駆使して読者を〈知(ち)〉の世界へ導く。

そして、最後には『渾円球』には、「死」を意識した歌が想像以上に多い
ことを教示してくれる。その「死」の歌を2首だけあげよう。


     死ぬことが恐く無くなるその前に死ぬならむ夜半の湯にゐて思ふ

     曼珠沙華の冬の緑葉ほんたうのことを言はうか 死ぬのが怖い


「死」といえば、河野裕子も死に関わる歌だが、オノマトペの考察をして
いることだ。そういえば、河野裕子のオノマトペは、既成のものではなく、
創作された、寧ろ自然発生的 ? ともいえる独自のオノマトペが多いように
思う。


    ひとりぺたんとこの世に残され何とせうひい(、、)といふほど椿が落ちる

                        『庭』(04/11) 河野 裕子

この『わたしの秀歌散策』は、選んだ歌も良いが、その鑑賞が際立っている。
分析的なこともあるにはあるが、いずれも平易なことばで綴られ、先へ先へ
と読みたくなる。

見開き2ページ分の鑑賞が読み易い。

作者を探して読むのもいいし、好きな歌を探すたのしみもある。当分この
1冊を鞄の中にいれておこう。

                          2019年1月29日発行

                              2500円+税

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