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2019年4月29日 (月)

歌集『さらぬ別れ』園部みつ江 ながらみ書房

平成21年から10年間の中から選んだ417首を収めた著者の第3歌集。「国民文学」所属。なお、歌集題に込められた『さらぬ別れ』は、(死別)の命題だと記している。

 

高齢化社会となった現在、この歌集を読むと老々介護のことや、老いるとは生きるとはなど改めて考えさせられる。だけど、著者の園部さんの在るが儘の姿がなんとも潔いというか、お手本みたいで心強い。そして、集中には平成23年の東日本大震災に寄せる歌が収められており、著者の悲憤が伝わってくる。

 

  つつしみて農に漁りに栄(は)えきたる地震島に何とす五十四の炉

  汚染濃く溜りたる水汲み上げて濃さのまま捨つ足下の海へ

 

高齢となった夫婦の姿がなんとも自在にうたわれており、その中で夫を詠んだ歌には、長く連れ添った夫婦ならではの信頼と愛が溢れている。

 

  いつの間に車のマークを高齢者としたるや夫の二年早きに

  給付金当てて買ひたるアイロンの五年を経たり夫の備品

  寒しるき夜の湯殿に声しぼりわれを呼ばふよ脚が立たぬと

  ごちそうさまごそまつさまと言(こと)交す声音(こわね)に

  夫のけふを確かむ

  湯にふるふ豆腐ばかりを掬ひにき魚肉に君の箸は向くなく

 

素っ気ないようでいて、夫婦の気持ちの齟齬はない。お互いがお互いを知り尽くしている安心感がほの見える。著者自身をうたった歌のなかに「傘寿」という言葉があった。それにしては「あとがき」の言葉の闊達さ、達観しているような大らかさを感じた。

 

  (略)後期高齢夫婦の眼前に映る風景は、里山の滑り台を一瞬の

  うちに駆け降りて、老々介護駅というステップに立つがごとくに

  あります。              「あとがき」より

 

  夕くらむ路肩を外れ自転車ともろとも打てる片腹熱し

  あなたより半歳早きわが老いを言はば言へ庭に梅が明るむ

  鄙の道踏みて傘寿を自転車にめぐりめぐれるいま郵便局

 

誰もが通らなければならない〈老い〉。その老いに対して、楽観も悲観もしていない、在るが儘の姿を真摯にうたっている。

最後に印象的な歌をあげたい。

 

  先生の部屋の長押(なげし)にかけてある長着を風が過ぐる時をり

  葉の上に伸び立ちシャボン噴けるかの花群(むら)木札に「けむりの木」と書く

 

「長押(なげし)」などという言葉を若い人は知らないのではないか。和風建築で柱と柱を繋ぐ水平材である。この長押が1首の歌のなかで機能している。そして、2首目の「けむりの木」はたのしい。わたしも先年、福岡市植物園で初めて見た時は驚いた。まさしく〈けむり〉の様相をしていた。歌仲間の連れを集め、写真にとったりしてつくづくと眺めたものだ。別名「霞の木」とも呼び、「スモークツリー」の呼び名で花屋さんに売られていたりする。

 

 

                  帯文  御供平佶

                  2019年4月19日発行

                   2500円+税

 

   

 

      

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