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2019年4月 6日 (土)

『久保猪之吉・より江 作品集』 福岡市文学館選書 6

  久保猪之吉は、東京帝国大学卒業後ドイツに留学し、その後九州帝国大学に勤めている。

  福岡では「エニグマ」という同人雑誌を創刊し、加藤回春や若山牧水や伊藤燁子(白蓮)などの

  作品も掲載し、自身も俳句を作っている。

  より江は、松山で小学校入学のため祖父母の家に下宿していたが、同じく下宿していた夏目漱石や

  正岡子規に俳句の手ほどきを受ける。明治40年、猪之吉と共に来福し自宅で文学サロンを形成。

  多くの文人たちと交流した。

  久保より江で先ず思い浮かべるのは、長塚節との交流であろう。節の身元保証人であった久保猪之吉、

  その夫人という立場と共に、正岡子規の相弟子としての親しみ、俳句と短歌と道は違えど同じ文学を

     志す者として、より江はことに節に目をかけている。

  長塚節は、平福百穂の秋海棠の絵を、より江夫人に贈っている。高名な「白埴の瓶こそよけれ霧ながら

  朝はつめたき水くみにけり」の歌は「秋海棠の絵に」寄せられて作られたものである。

 

と、まぁ、ここまでの知識はあったものの、本書は『久保猪之吉・より江 作品集』と銘打つだけあって、

実に綿密に調査され、猪之吉の短歌・俳句・詩・評論を網羅している。

そして、より江の短歌・俳句・小品(エッセイ)などを収めている。

巻末には、歌集のそれぞれの書影も収めてあり、さらに、各々の歌集・句集の目次まで転載している。

 

 

こんなに大変な作業 ? を。どれだけの時間をかけて、何名で執筆したのかと驚いている。

とても貴重な1冊だから、関心のあるかた、或いは研究しているかたは是非、手にとって読んでほしい。

ちょっとだけ久保より江の春にちなむ俳句を紹介しよう。

 

      猫の子の名なしがさきにもらはれし    久保より江

      猫の子もひいなの前に籠ながら        〃

      泣き虫の子猫を親に戻しけり         〃

      春愁やこの身このまヽ旅ごころ        〃



        紫羅欄(あらせいとう)の花 (日記)          久保より江

      (略)私はこの十数年住み馴れた福岡がすきである。博多といふひヾきもなつかしい。

       博多児の意気も嬉しい。唯もすこしすべて大様だつたら尚よからうと思ふ。この

       頃は何だか世の中が面倒くさくしやうがない。狭いうるさい世の中なんかに出よう

       より、うちの庭で草花でも相手にしてゐる方がよつぽどましなやうな気がする。

                                      (大八、四)

 

                             

                             企画・編集  坂口博/神谷優子

                                 2019年3月28日発行

                                   1500円+税

                                   発売  花書院

                    

 

      

 

 

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