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2019年5月14日 (火)

佐佐木幸綱論集『心の花の歌人たち』ながらみ書房

「心の花」創刊120周年記念事業の一つとして刊行されたもの。

「心の花」関係の人の歌集や全集や全歌集に序文や跋文、解説などを多く書いてきた著者が、そのなかの一部を採録している。

 

石川一成、竹山広、築地正子、保坂耕人、晋樹隆彦、俵万智、宇都宮とよ、谷岡亜紀、大野道夫等々、20名を越え、どこから読んでも良く、先ず関心のある人のページを捲ってみるのもいい。

わたしは先ず、築地正子の『築地正子全歌集』のページを開く。

    

   (略)築地正子を動物にたとえるなら鶴。犬タイプと猫タイプに

   分けるとしたら、極めつけの猫タイプの人だった。いつも背筋を

   すっと伸ばして、鶴の感じで人の輪の外側に静かに立っておられた。

   人に寄ってゆかない。しっぽは振らない。愛想をふりまかない。(略)

 

見事な人物評だと思う。人に媚びず、阿らない姿勢は見ていて気持ちが良かった。しかし、冷たい人ではなかった。何度もお会いしたことはないが、安永蕗子さんが迢空賞を受賞した時、お祝の会が熊本であり、築地さんもいらしてた。安永さんはその日、二次会の席を立派な料亭を予約されていた。その席にも築地さんはいらして、偶々わたしの隣の席だった。私は何を話せばいいのか緊張していたが、築地さんの方から声を掛けてくださり、その時は「孤高の人」ではなく、たのしい会話だった。(そんなことを思い出した。)

 

   かの時にかの人選ばざりにしが正解ならば今のわれなし 

                           『自分さがし』

   われをしてわれたらしめて雪降れり視野のはたてにまだ昭和見ゆ 

                           『自分さがし』

   書き残す恥にし耐へて書きおかむわれの葬りのかねのありども  

                           『みどりなりけり』

   生きの緒のぬきさしならぬ濃紫明日とはいはず今日の竜胆   

                          『花綵列島』

   卓上の逆光線にろがして卵と遊ぶわれにふるるな    

                                                                  『花綵列島』


とにかく、築地正子の歌はいい。

本書に採録の解説も実に丁寧に書かれてあった。

次次に読んだなかで印象深かったのは、藤島秀憲の『ニ丁目通信』。藤島さんの歌集は読んだことがなかったので、興味津々でその歌と人柄を想像したりして、たのしんだ。作品と人物がぴったりだと著者が書いている。

 

    アララギの写真 茂吉と文明の間の人は「ひとりとばして」

    土曜日のけんかは朝のうちに済み隣の夫婦が網戸を洗う

    われからの電話に父が「留守番でわかりません」と答えて切りぬ

    おもらしの後は黙禱するように壁に向かいてうなだれる父

    母さんは幸せだったかとわれに問う父にはほんとうのことは言えない

 

父親を介護していた時期の歌がなんともいい。日常をその儘うたっているのだろうけど、なんとも可笑しく、そして、悲しみがあとを曳く。藤島さんの『二丁目通信』を古本屋で捜す、かな。

 

こうして、新しい読者がこの書によって生まれるだろう。

「とりわけまだ若い人たち、さらには次代の人たちに読んでもらえれば…」(あとがき)には、該当しないけど、鶴見和子さんの『虹』、『回生』、『山姥』を読めたのも幸いであった。

 

 

         2019年4月25日発行

          2300円+税

                        

 

 

 

 

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