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2019年5月20日 (月)

歌集『ゆるりと行かな』永島道夫 角川書店

『石うづくまる』に次ぐ第5歌集。1ページ2首組、2行書きの作品、422首を収める。

「朔日」所属。

「仕事を止めての気ままな日常」とあとがきに記す。

 

    逢ふたびに自慢話をする老いを厭ひてゐたるわれがさうなる

    六十五歳以上の人は割引と顔見て言はれ少し傷つく

    真つ直ぐに押せずにいつも苦労する実印を押すこんどこそはと

    潮時と見て相槌を打ちたるに結果の責めを負ふ羽目になる

    金銭の多寡にてこころが変はりさう危ない危ない手前で気づく

    ほどほどのほどがわからず七千歩日ごと続けて膝を痛める

    逆風の吹けばふくほど強くなる妻の背中にわれは隠れる

    思ひ出の品ばかりにて置き場所を変へたるのみの整頓になる

    二泊(ふたはく)の旅行保険に八十二歳(はちじふに)と記入してのち気後れのする

    携帯電話(ケイタイ)は妻とわれとを繋ぐのみ日がな一日鳴らず静もる

 

 

大きな事件や厄災がある訳ではない暮らしの日々。その日々のなかでの著者の感慨は生活者としての足が地に着いたまっとうなもので読み進めながら、共感する部分が多かった。

 

1首目、結句によってわが身を振り返り、わが身のこととして詠んでいるところがいい。「自慢話」ばかりする人、愚痴ばかり零す人、人様の悪口ばかり言う人と、この世の中には様々な人がいる。なるべくそういう人とは距離を置きたいが、兎も角、自分だけはそうなりたくないという自覚が必要なのだ。(自戒、自戒。)

3首目、上の句は、わたしなども常々そう思う。不器用なのか、齢のせいなのか真っ直ぐに押すことができない。まさに「こんどこそは」である。

7首目を読んで笑ってしまった。たのもしい妻の背中であることよ。

8首目、みんな同じようなことをしている。断捨離はなかなかできそうにない。

10首目、いよいよ「妻とわれ」との世界になりつつある。これは考えてみれば良いことかもしれない。

 

 

などと、勝手な感想を綴ったが、著者の生真面目さ、実直さの際立つ一集でもある。

目次の小タイトルを読むと、動詞が並ぶのが特徴的。「魚は泳ぐ」、「時間の止まる」、「立山を行く」、「つよく息吐く」、「ぐいと引き抜く」、「闇を動かす」等々。そして、歌集題の『ゆるりと行かな』。

 

    平均の寿命に至り朧げに見ゆるものありゆるりと行かな

 

              

            朔日叢書 第106篇

            2019年5月25日 初版発行

             2600円+税

 

 

☆   ☆   ☆

昼間の土砂降りが嘘のように晴れ上がり、

午後7:20   夕焼けがことのほか綺麗だった。

 

 

                

    

 

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