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2019年6月15日 (土)

『白仏(はくぶつ)』 辻 仁成  集英社文庫

フランスの文学賞、フェミナ賞・外国小説賞受賞作。

明治から昭和まで、激動の時代を生き抜いた男の一生を描いた長編小説。

(なお、この小説は辻仁成の祖父・鉄砲屋 今村豊がモデルとか)

 

     人は死んだらどこさん行くとやろか

     人は必ず死ぬったいね

     死ぬって、いつや

     死は負けではなか。負けたっと違うぞ。

 

 

幼少の、つまり7歳頃より「死」を語る場面が多い主人公・江口稔。

物語の舞台が筑後川の最下流の、有明海に接する河口の島・大野島と

いうことで、その地の方言が心地良い。

初恋の相手・緒永久(おとわ)が亡くなったのち、夜こっそりその墓処に

行く。

 

    

       死者の肉体は崩壊しても、死者の記憶はまだ生きている者の中に残って

       いる。つまり、緒永久は自分の中に今いるんだ、自分が存在している限

       りその生は消え去ることはないのだ。

  「おとわしゃん」

 

大正7年12月、稔は徴兵によって東シベリア、ボアラノイスクへ駐屯。極寒の

吹雪の中、三八銃を抱えて。赤軍兵士に対して、引き金を引き、その上瀕死の

相手に銃剣で止めの一撃を加える。

 

敗戦が決まり、日本軍が解体し、稔は50歳にして肉類全てを食べることが出来

なくなる。肉を見るとあのシベリアの記憶が蘇るのだ。和尚さんに自分の罪を

告白する。

 

   戦争の真っ只中のできごっやけん、仕方んなかこったい

   戦争が一番悪か。そげんせんかったら、おまんが殺されとるかも

        しれんのやけん

 

 

昭和28年6月の集中豪雨は1000ミリを超え、それは年間降水量の50%強にも及ぶ

大雨となった。大野島は海抜ゼロメートルの地。結局、江口工作所の小型耕運機は、

農家から一銭も集金が出来ず倒産した。娘・倫子が諭すことばに泣いた。

 

   死のうなんて考えたらいかんたい。

   どうせほっといても人間はいつか死ぬったい。

 

晩年の稔は、村の墓地に眠っている遺骨を砕いて、「白仏」を創造することに使命感

を抱く。

                          

 

                        解説  山口 昌子

                        2015年8月25日 第1刷

                          640円+税

 

 

☆    ☆    ☆

辻 仁成の小説の中でも、これは断トツに力作だと思う。多分、40歳前の作品だと

思うが、これだけ「死」が、頻出する作品は珍しい?知らなかったなぁ。読んで

最高に良かった。

 

 

 

                        

 

 

 

 

 

 

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