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2019年6月24日 (月)

歌集『夏燕』中西由起子 ながらみ書房 

現代女性歌人叢書21。「心の花」に所属の第三歌集。

 

   子を連れた娘が駅にわれを待つゴム一本に髪を束ねて

   着るものはどうでもよくて穿き通すグレーのスカート制服めきぬ

   万葉集巻五のなかば来て匂う三十二本並ぶしら梅

   今日の雨冷たく降りて鳥籠へみずから戻るインコと私

   立秋の伸び放題の藤の蔓 吐く息大事吸う息大事

   遺言書自分史戒名ととのえて酸素マスクに霧を吐く人

   美酒・男子(なんし)・うましき歌を伴いて巻五に咲ける白梅の花

   青空に昔のわれが棲んでいて時間は前にゆくのみならず

   キッチンのボールに二個の茄子泳ぎ何か覚束なき五月尽

   わたくしが少年ならば泣くだろう晩夏の来ている橋梁の下


元号が「平成」から「令和」になったとたん、『万葉集』が持て囃されている。

書店に行けば万葉集関係の本がずらり平積みにされている。

そして、太宰府には全国津々浦々からの観光客で日々賑わっているそうだ。

 

中西さんの3首目、7首目の歌は、「令和」やそれらに纏わる諸々とはいっさい

関係なく、即ち平成の作品である。そのことにわたしは大いに気をよくしている。

新元号が決まった途端、「巻五」のことをうたうのは容易いかもしれない。

 

中西さんの歌は、いつも平常心で素のままの姿である。

それは1首目の下句の娘さんを描写した「ゴム一本に髪を束ねて」や、2首目の

「着るものはどうでもよくて」のような無頓着振りに窺える。(そこが好き。)

 

5首目の下句「吐く息大事吸う息大事」、そして8首目の下の句の「時間は前にゆく

のみならず」という思索など、ふわふわと生きている人は気付かない。(あヽおまへは

何をして来たのだと……中也風にわたしは私に呟く)

 

歌集題になった歌をあげて、本集の紹介は終わり。

 

    夏燕ひとたび行けばもう来ずと思う駅舎を低く飛びおり

 

 

                令和元年五月一日発行

                  2500円+税

 

 

 

 

 

   

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