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2019年8月26日 (月)

歌集『はちぐわつ』佐藤伊佐雄  現代短歌社

作者・佐藤伊佐雄さんは広島県の宇品にお住まいである。

宇品埠頭には先生の歌碑が建っている。

   陸軍桟橋とここを呼ばれて還らぬ死に兵ら発ちにき記憶をば継げ

                           近藤 芳美



佐藤さんはジャーナリストとして活躍され、近藤芳美のドキュメンタリー番組を

広島のテレビ局で制作したことがあるそうだ。そんな縁もあって60歳を過ぎて、

短歌の世界に入って来られた。

このたびの第一歌集は、「未来」に入会した2012年秋から2019年春までの作品、

364首を収めている。

 

   片仮名でコレガ人間ナンデスと民喜が詠みし街のかげろふ

   標的となりたる橋を潜るときあぎとふこゑの風に顕ちたり

   終の日に〈崩御〉拒みて伝へたる吾に届きし異動辞令書

   白き雨そぼふる朝に碑に刻む「記憶を継げ」の文字の旧りたり

   堕ちたではなく落としたのです死んだではなく殺したのですピカドンは

 

1首目、原爆体験を小説にした『夏の花』の原民喜。

2首目、米軍の爆撃機が標的にし原子爆弾を投下したのは、広島の相生橋。

3首目、昭和天皇の〈崩御〉の言葉を巡って、決意をもって〈逝去〉の言葉を

   選んだのだが、「異動辞令」が下ってしまう。

4首目、歌碑に刻まれた「記憶を継げ」は、この歌集の題にも込められている。

 

 

気骨ある佐藤さんの歌が随所にある。それは佐藤さんの思想でもある。

そんな中にあって、心がふっと和らぐような下記の歌がさりげなく収められている。

 

    総身の葉うらを見せて戦ぎたるポプラ一樹はひかりをまとふ

    夕さりに茅花の穂綿しづまりてあはきひかりの風を待ちをり

    私は雲雀になつて空に消えます鉄路に倚りて妻を追ひたる

    天蓋を透きて広ごる虚空には三月のあをさんぐわつのしろ

    銹色の落葉を破(わ)りてさえざえと筆りんだうは青をほどきぬ

 

被爆から74年を迎えた広島、その広島の宇品の地から、これからも

気骨ある歌、やさしい歌を紡いでいくことだろう。

 

 

               

              跋  「時を背負う覚悟」 大辻 隆弘

                  2019年8月6日 発行

                     2500円+税

   

 

 

 

   

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