« 歌集『古酒騒乱』坂井修一 角川書店 | トップページ | 花山多佳子歌集『鳥影』 角川書店 »

2019年8月17日 (土)

歌集『微風域』門脇篤史 現代短歌社

「風に舞ふ付箋紙」にて、第六回現代短歌社賞を受賞した門脇篤史さんの

第一歌集。歌集のタイトルの文字がゴチックではなく、細字なのが特徴的。

帯も「あとがき」も無い。

帯があれば「第六回現代短歌社賞受賞」作品を含むと惹句を付けたで

あろうに。潔いというか、潔癖なのかしらん(笑)

 

   側溝に入れなかつた雨たちがどうしやうもなく街をさまよふ

   置き傘をときどき使ふ傘であることを忘れてしまはぬやうに

   来年の夏がきちんと来るやうに使い古した付箋を貼りつ

   いつからか蛍光灯は間引かれて我らを淡くあはく照らせり

   鎮魂の儀式のごとく食器から値札シールをひたすらに剥ぐ

   権力の小指あたりに我はゐてひねもす朱肉の朱に汚れをり

   アヲハタのジャムの小瓶に詰めてゆく自家製ジャムのたしかなる熱

   故郷との距離思ひをりひとり立つコイン精米機の薄明かり

   子をなさぬ理由をけふも問はれたり 梅雨の晴れ間に散歩に行かう

   二分半ひかりを浴みてパンの上(へ)に正方形のとろけるチーズ

   故郷から届く馬鈴薯いくつかは鍬の刺さりし跡を残して

   今はなき臨終図鑑の上巻を誰に貸したか思ひ出さない

 

門脇さんの作品を纏めて読んだのは多分「はつか」(2017年1月22日 発行)

だったと思う。旧仮名遣いに先ず注目し、端正な歌に惹かれた。若い作者だと

思ったが、歌が騒がしくない。沈静された佇まいを感じた。(自分の中に確たる

ものを持っているひととお見受けした。)

 

拙ブログ「暦日夕焼け通信」(2017年6月12日)で、「はつか」の門脇さんの

作品の感想を記しているのをこのたび読み返してみた。チェックした歌は殆ど

変わっていない。ただ、今だったら6首目の「権力の小指あたりに我はゐて

ひねもす朱肉の朱に汚れをり」は、10首の中だったら外していたと思う。

それは「権力の小指あたりに」の部分がやはり気になるのだ。これは

わたしの指向が2年経過して変わったのだと思いたい。

 

2首目、3首目はともに「やうに」の比喩があるのだが、言い得ていると思う。

作者の生真面目さが良いかたちで出ている。

 

10首目の「とろけるチーズ」の歌は「正方形」が際立つ。わたしなども経験

しているのに歌には出来ず、というより鈍感なんだね。

   

12首目の歌、結句の「思ひ出さない」に門脇さんの大仰に言えば信念がある。

「思ひ出せない」のではなく、思い出したくないのだ。思い出しても結局

戻って来ない(返してくれない)ものは、思い出さないほうがいいのだ。

精神の安定のために(笑)

 

ともあれ『微風域』の世界は貴重だ。

この精神世界は貴重だし、保ち続けてほしい。

 

ところで、門脇さんって、島根県生まれなんだ。

わたしの父方の故郷が島根県邑智郡川本町。(よけいなお喋り(笑))

父は島根県から大分県の跡取り娘のうちに養子に来たのだ。

今でもあの「江の川」が時々目に浮かんでくる。

 

              栞 人間の「生」      楠 誓英

                絶望的な日常のなかで  阿木津 英

                ジャムとボイルドエッグ 内藤 明

                   2019年8月11日

                    2500円+税 

 

 

 

               

   

« 歌集『古酒騒乱』坂井修一 角川書店 | トップページ | 花山多佳子歌集『鳥影』 角川書店 »

書籍・雑誌」カテゴリの記事