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2019年8月18日 (日)

花山多佳子歌集『鳥影』 角川書店

『晴れ・風あり』以後の作品を収める。第11歌集。

1968年に「塔」に入会しているから50年以上「塔」に在籍している

ベテラン。「塔」選者でもある。

 

   めぐりみな若かりしかばめぐりみな老い人となる時は来向ふ

   布団の中にトランジスター・ラジオ持ち込みて浪花節聴きゐしは

        ほんとにわれか

   蒸し暑きこの夕まぐれ新米に手をさし入れてしばしを居りぬ

   刑務所の面会のごとしパソコンの画面の息子と言葉を交はす

   トランプの神経衰弱の気合ひもてプリントいちまい畳にさがす

   バスタオルの柄みな淡くなりたるをたたみつつゐて秋の夜なり

   うつむける幼子の口とがりつつボタンは穴にほら、通りゆく

   はらはらと飛び立ちゆける鳥影をいくたび見しや冬の散歩に

   「見る」と宣言をして鉄柵をにぎりしめたる子は川を見る

   左眼を手もて覆ひて読みゆくに脳はんぶんで読む感じせり

 

 

1首目、そういうことなんですよ。50年前はみんな若かった。

  その若かった「めぐりみな」も「老い人となる時」は、抗えない。

    ーー「芸術は長く人生は短し」(ヒポクラテス)ーー

2首目、「ほんとにわれ」なんですよ。自分でも自分のことが度し難い(笑)

    --「三たびわが身をかえりみる」(論語)ーー

3首目、忘我のひととき、至福のとき。新米はひゃっとして気持ちいいのかしら?

    ーー「物は試し」ーー

4首目、テレビのドラマなどで刑務所の面会などが放映されている。

    ただちにその場面が浮かんできたのだろう。母親である作者とカナダに

           居る息子がパソコン上で言葉を交わすことが出来る時代になったのだ。

5首目、いちまいのプリントとはいえ、気合を入れなければ出てこない。

    --「一念岩をも徹す」ーー

6首目、結句の「秋の夜なり」がまさに打って付け。夏の間、何度も何度も洗った

         バスタオルは陽に晒され、柄の色が落ちて淡くなってしまっている。

         生活の草臥れ感もただよう。

    --「明日は明日の風が吹く」ーー

7首目、ばあばが手を出したらいけん。

    --「初心忘るべからず」

8首目、歌集題になった歌。「雀鷂(つみ)とふ小さな鷹の白き腹みあげてゐたり

    五月の梢(うれ)に」の歌も好きだな。「あとがき」によると、

         雀鷂(つみ)は、カラスよりも弱い鷹だそうだ。

9首目、宣言をするところがカワユイ。わが愚息も幼子のころは何をするにしても

    「宣言」してたな。たとえば「オシッコ」とか…

10首目、2首目、3首目もそうだが、これぞまさしく花山多佳子の歌だ。

    この10首目など、なにやら哲学的でさえある。脳はんぶんで読んだら、

          あとの半分は明日つかえる?

    --「濡れ手で粟」ーー

 

と、まぁ、「ことわざの読本」を傍らに読み終えた『鳥影』。

不謹慎でごめんなさい。花山さんの「大根」の歌が強烈だったので、脳裏に

刻み込まれ、ついつい、そのような路線の歌ばかりを挙げてしまいたくなって、

困る。ほんとうに困る。

 

 

              2019年7月25日 初版発行

               塔21世紀叢書第353篇

                 2600円+税

 

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