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2019年9月26日 (木)

『梨の花』小池光歌集 現代短歌社

2014年から2017年の作品を収めた第10歌集。

年齢では67歳から70歳である。

 

  女子会のとにもかくにも盛り上がるとなりの席にひとりもの食ふ

  手に入れし古書を開きてぞんぶんにさしくる春のひかりを吸はす

  をりをりにリップクリーム塗ることあり六十七歳のわがくちびるに

  板の間に横たはりつつ「ぼろ切(きれ)か何かのごとく」なりたる猫は

  伯耆の国より送られきたる干柿はわれに食はれて種のこりたり

  未発表の歌百首ばかりたまれるは財布に金の唸(うな)るがごとし

  革靴の先そんなにも尖らせて何にいらだち歩くといふや

  わが希(ねが)ひすなはち言へば小津安の映画のやうな歌つくりたし

  すがすがとわれは居るべし雪ふる夜(よる)再婚話のひとつとてなく

  「はい」とのみ返信一語娘(こ)のメールすなほにあればかなしかりける

  わが半生かへり見すれば自転車泥棒いちどもせずに来たりしあはれ

  百円ショップで買つたと言ひてヘアブラシ長(をさ)のむすめがわれに

  くれたり

 

『思川の岸辺』で泣いたわたしたち(?)は、このたびの歌集でちょっと安堵し、

それでもやっぱり何かしら背中をトントン叩いて、励ましてあげたくなる。

 

1首目だってさみしい。初老の男が「ひとりもの食ふ」のは。よりによって盛り上がる

 女子会の隣とは…


2首目、古書ってどうしてあんなに匂いがきついんだろう。「春のひかりを吸は」して、

 正解。


3首目は、小池さんでも(笑)そんなことするのかと驚き。若い男性が人前で塗って

 いるのを見かけると、いゃーな感じになるのだけど。


4首目、鈎括弧の中の言葉は、茂吉の『白桃』の中の「街上に轢(ひ)かれし猫は

 ぼろ切(きれ)か何かのごとく平たくなりぬ」を引用している。それにしても、

 小池さんちの猫ちゃんも老衰で昇天なさった。

   (『文藝春秋』2014年12月号に掲載された「死にたる猫」の連作を思い出す。)

 

5首目も茂吉ばり。「ただひとつ惜しみて置きし白桃(しろもも)のゆたけきを

 吾は食ひをはりけり」を思い出す。

 

6首目は、面白い、愉しい。下句の譬えがなんとも小池さんらしい。

 

7首目、苛立って歩いているのと違う。あの先の尖った革靴って流行(はやり)

 なのかしらん。似合う人も居るにはいるが…

 

8首目、そう、小池さんの短歌は小津安二郎の世界に通じるものがある。

 ご自分でわかって(笑)いらっしゃる。

 

9首目、「居るべし」だなんて…。心底では、期待している?のかしら。

 

10首目、素直に育ったのも、親の教育(躾)のせいでしょう。

 

11首目の「自転車泥棒」には、まいったなぁ。まぁ、要するに半生をかえりみた時、

 法に触れるようなことはしてこなかったという自恃にも繋がる。

 

12首目、百円ショップで買ったというのがいい。ヘアブラシというのが実にいい。

 (14000円のおせちとどちらが嬉しかったのだろう。どちらも嬉しい(笑)。

  そりゃあそうだ、娘からの贈り物だし…)

 

 

恣意的な引用で小池ファンの方々にはごめんなさい。

どうぞ、是非お手にとられて<小津安>短歌を味わってください。

 

 

          2019年9月14日 発行

            3000円+税

       

 

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