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2019年10月15日 (火)

『麻裳(あさも)よし』久々湊盈子歌集 短歌研究社

前歌集『世界黄昏』に続く第10歌集、524首をおさめている。

 

   六度目の年女だもの言うべきはおそれず言わん 玄冬がくる

   組織的犯罪集団にはあらず組織的短歌集団ひとつを統べる

   自己愛の最たるものにてしねしねと己が身を舐め飽がざるよ 猫

   心を容れるによき器なり歌という遊びにひと生(よ)退屈をせず

   追熟を待つ一箱のラ・フランス明日あることをつゆ疑わず

   それぞれに持ち合わす常識に差異あれど朝の六時に電話よこすな

   他人の不幸ツィートしては留飲を下げる下郎がパソコンに棲む

   麻裳よし紀路は卯の花曇りにて瀬音に耳をあずけて眠る

   戦火のにおいは男を誘(おび)くか「積極的平和主義」なる戦の備え

   鞘走りしたがる性(さが)は母譲り「おきゃん」のままにて古稀を越えたり

   六十からの時間は韋駄天走りにてこの手をこぼれてゆきし誰かれ

   朝プールに出でゆきしあと起きだして夫の作りし味噌汁を飲む

 

 

以上、集中から、12首を私の好みで選んだ。

 

1首目、「言うべきはおそれず言わん」に彼女の真骨頂を発揮している。

    10首目の「おきゃん」、11首目の「韋駄天走り」など自身の性状?を

    認識していて、ある意味スゴイ。(そうであってもなかなか発語でき

    ないのは肝が据わっていない小心ゆえのわたし、であろう。)

 

2首目、「組織的短歌集団」の「合歓」を率いて、やがて30年になんなんと

    する。確たる覚悟なくしては「ひとつを統べる」ことは出来ないだろう。

 

5首目、「明日あることをつゆ疑わず」だから、生きていけそうな気もしている

    のはわたし。

 

6首目、結句の「電話よこすな」の命令形の恰好良さ。

   

7首目、「溜飲を下げる下郎」が、世の中に居るには居る。

 

8首目、歌集題にもなった1首で、

      (略)『万葉集』には「麻裳よし」という枕詞を使った長歌・反歌が

       六首あるが、その昔、紀伊の国から良質の麻を産出したことから

       「紀・城」にかかる枕詞に なったという。(略)            

                           「あとがき」より

 

12首目、まことよきあけくれであることよ。

    「夫の作りし味噌汁」の味の、なみだぐましさ(笑)

    詞書に「夫が三食作ってくれるようになってもう長い」と記す。

    平成元年から31年までを、31首にした「時は韋駄天ーー

    平成じぶん歌」の中の1首。

 

 

久々湊さんの歌を読んでいると、胸の中のモヤモヤも吹っ飛んでいってしまう。

気風(きっぷ)がいいというのは、たぶん久々湊さんのような人をいうのかも

しれない。うじうじしていなくて<竹を割ったよう>な、お人だ。

 

社会に向ける眼差しにも凛としたものがみなぎっていた。

この一集は是非ともテキストとして使いたい。

 

 

                 令和元年9月20日

                   3000円税

 

 

 

 

 

 

 

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