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2019年10月21日 (月)

歌集『うたとり』和嶋勝利  本阿弥書店

1966年東京都生まれ。1992年「りとむ」創刊に参加。

『雛罌粟(コクリコ)の気圏』に続く第4歌集。

 

昨今では珍しい箱入り。箱の色は御召茶?で金箔の白鳥座?が描かれている。

歌集の表紙の色は薄鈍色? なにげに瀟洒な造りであり、装幀者の渡邊聡司氏の

美学と著者の好みが合致したのかしらん。(すてきな造本。)

 

   平成は昭和の二日酔ひのごと無為の時間に出口が見えぬ

   葷酒とふ楽しきことはやめられず味噌をつけては食むエシャロット

   人の名は時代をうつすものなれば勝たねばならぬ戦争なれば

   にんげんの必死のすがた見せながら25メートル子は完泳す

   福島泰樹みたいと妻に疎まれて中折れ帽子もそれつきりなり

   ひいやりと朝の空気は黙しをり やあ樅の木よまた会ひに来た

   タラップを降り来る四人の法被にて永久に残らむJALといふ文字

   五十二で逝きたる父にあと三年かぞへてわれの元旦はある

   表情を苦き果(このみ)であしらへた雪だるま おお、それがぼくだよ

   『三省堂例解小学国語辞典』子の手を離れわが愛用す

   ちちのみの父の背丈は越えたのか越えられぬのか 夏、十四歳

   "うたとり〃は美しい声の鳥にあらず報告さるる疑はしい取引

   恋人をぼくから奪つた俊介とそれには触れず酒さし交はす

 

 

〈暮らし〉が丹念に描かれている。

歌が、絵空事でないのが良い。にんげんは働いて生きていかなければならない。

それがごく当たり前にうたわれている。生活の実感がある。

 

3首目、著者自身の名前のなかに「勝」があるのに拘った歌が他にもあった。

   「人の名は時代をうつすものなれば」は、現今の子どもたちの名前からも

   窺える。(正しく読むのも難儀な名前が多いし…)

 

4首目・11首目、おのが子をうたって出色。

10首目もいいな。子のお下がりの辞典をつかうお父さん。

 

5首目、福島泰樹の中折れ帽。(そういえばわがやに一つある。

   昔々、なんのはずみにか頂いたものだ。)

 

7首目、1966年のビートルズの来日、記憶に刻まれているのは羽田空港の

   タラップを降りる4人の姿だ。JALのロゴ入りの法被を着た4人の姿は

   記憶に刻まれている。とは云っても映像で観たのだが…

 

12首目、「うたとり」とは、証券業界の符牒らしい。疑わしい取引を簡略化して

    「うたとり」。あえて、歌集名にした著者。「うた」という響きゆえか。

 

13首目、あげなくても良いような歌だが、次の歌によって俄然ひかりを放っている。

    「その女(ひと)は半年のちに見合いして結婚したり ざまあみやがれ」

    正直な人だ。

 

 

和嶋さんは、丙午年生まれ。

わが愚息と同年同月生まれなのだ。

そう思って読むと、一層に生活者としての逞しさと苦悩?が、伝わってくる。

 

 

                  2019年9月20日 初版

                   2700円+税

 

 

*   *   *

午後7時35分、夕顔の花が1つ咲いていた。

やっぱり蔓を残していて良かった。

10月21日の夕顔の花、あなたは逞しい。

あなたはエライ🎵🎵🎵。





 

 

 

 

 

 

 

 

   

 

 

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