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2019年11月 5日 (火)

『乾いたパレット』山田泉歌集 六花書林

2015年「短歌人」入会の、338首収めた第一歌集。

 

東日本大震災の大津波で母を喪う。

都内の公立小学校で図工の専科教諭として30年勤務した。

著者は絵画を描き、個展も開く。本集の装画は著者の手による。

 

   立ちながら朝食をとる作業員 春雨けむるコンビニの外

   忘れられぬ最初と最後の勤務校は大東京に姿を消しぬ

   震災に母を亡くしし悲しみは間欠泉のごと吹き返すのか

   叶うなら震災前のあの庭で母と語らい草取りしたい

   待ち針の刺さりしままに残りおり逝きたる母の藍のワンピース

   コスモスを活けて林檎をふたつ置く母の遺影は秋になりけり

   タスマニアへ行くはずだったこの日々を癌病棟にて夜景楽しむ

   転移なしと告げる外科医のうちとけて寺山修司へ話題は変わる

   さか道の藤田嗣治の巴里風景 路面電車がまもなく曲がる

   布の上に隼人瓜三つ配置して四日過ぎたり 写生は途中

   途切れなきバイク、車をかき分けて道路は渡る気を強くして

   十月の空に朝顔咲きつづく千七百も数えてきたり

 

3・4・5・6首目は、震災の津波で亡くなった母の歌。「間欠泉」のように

  吹き返す悲しみに、言葉もない。いきなり攫われてしまったのだから。

 

7・8首目を読むと、あえて明るくうたっているのかもしれないが、

 「癌病棟にて夜景たのしむ」とはなかなかうたえない。

  そして、8首目では、外科医と寺山修司の話題へ。精神の靭い人なのだろう。

 

9首目は、画家らしいモチーフである。藤田嗣治の巴里の風景写真から

  路面電車の勾配まで発想したところがいい。 

 

そして10首目は、歌集題にもなった『乾いたパレット』を暗示する「写生は途中」。

 

11首目は、ベトナムの道路事情がそのまま伝わってくる。躊躇せず堂々と渡って

  下さい、などと、添乗員さんが言うけど、「気を強くして」していても

  私は渡れなかった。

 

12首目、朝顔の花が1700個は、なかなかの数。ひと夏楽しみ、その朝顔は

  10月まで咲き続けたのだろう。(そういえば、わがやの夕顔はまだ2つ

  莟が付いている。)

 

 

               跋  生の活気あふれて  小池 光

                 2019年10月19日 初版発行

                     2000円+税

 

 

 

 

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