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2019年12月 5日 (木)

歌集『雲の行方』上野春子 六花書林

第一歌集『虹の食べ方』から19年を経ての第二歌集である。

石田比呂志率いる「牙」の編集委員を解散まで務め、2013年

雑誌「芽」を立ち上げ、代表となっている。

 

石田さんが亡くなられたのは、2011年2月24日であった。

享年80歳の死によって「牙」の同志・仲間たちが歌を発表する場を

失った。そのご、それぞれがそれぞれの場を築きあげ、現在に至る。

上野春子さんのこのたびの歌集には石田さんの影が色濃く反映している。

そのことを思いながら読み終えた。

 

   あの雲の行方を知っているのなら鳥よ帰らぬ人に告げてよ

   純白のままでいたいと願っても雲の逃げ場は空しかないぞ

   さよならと言えば終れると限らない嫌いな者は縁(えにし)

   が深い

   七味より一味が辛い鍋の中いびり蒟蒻いびられ踊る

   めくっても裏がないほど薄っぺらいい人だけど好かれぬ人よ

   終点の健軍下車後徒歩十分長酣居ありき石田さんありき

   待つ人も待たせる人もなき街に用なく立てり夏至の夕べを

   お下がりの亡き師のシャツを纏いたる夫が石田節にもの言う

   翼など持っていたとて何になる飛び立つあてはどこにもないさ

   プリンター、パソコン、テレビ突き上げて飛ばして落とすこの

   大き揺れ

   悲しみは五月の風に乗せてやれまどろみながら鳥が櫓を漕ぐ

   嫁役と母役終わり妻役は終身刑の如く続けり

 

 

喪失感の滲む歌集であるが、うたいくちが潔いというか、いずれの

歌にも曖昧さがない。断定語のためかと思いつつ、これは著者の性分では

ないかしらん、とも感じている。

 

10首目の「熊本地震」の歌、2016年の4月に起こった地震は2度目の本震の

震度7によって、熊本周辺は壊滅の状態であった。「突き上げて飛ばして

落とす」揺れの酷さは、考えただけでも恐ろしい。

地震国・日本は、これからだって、いつ、なんどき、あのような地震が起きる

かもしれないのだ。

 

最後の12首目の歌、「終身刑の如くに」と素っ気ない。そうは言っても彼女の

情(じょう)の熱いことは、夫君がいちばん知っていることだろう。

 

そういえば、上野さんにはもう随分お会いしていない。

 

 

                2019年9月24日 初版発行

                  2500円+税

             

 

 

 

 

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