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2020年2月19日 (水)

同人詩誌「氷炭」№4

             

              形成への断章 Ⅰ     

                中野 修

 

   それはことづてだった

   河床をはいでいくごとにあらわれる血管は破れ

   口もとにぬめる廃血にくちづけする

   かすかな温もりでかえる遺伝の子

   逆さにつるされたままに夢みつづける

   いつかまた産まれてこないために

   死者たちはわたしを分けようとし

   なおも死につづけるために労働は夜々

   機械的にくみたてられた目覚めさえ

   いまは淋しい気配でしかない

   まだ産まれるわたしの死児へ

   しずかに狂ってゆくのだ

   ひとつのたたかいのあとに咲く黒葬花ににて

   笑癖のわたしがことつけるもの

   死を指令するゆび先に何をたくそう

   ことばの解放がすなわちわたしだけの終りであるとき

   笑いだすものがないように殺しておくこと

   はぎとってきた河床に胎む思考する魚

   ついに誰のものでもない朝靄をぬって

   ひとりの男がわたしを出る

   つぎつぎにわれる食器を腰にさして

   ことづての声は読みさしの弔辞

   ひたいにくぎうつ

 

 

       1984年5月1日 発行

       編集 是永 秀喜

       表紙 池田 由美

            200円

   

   

 

   

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