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2020年2月22日 (土)

歌集『東京(とうけい)』田中拓也 本阿弥書店

「心の花」所属の第4歌集。

著者は、歌集を出すたびに何かの賞を受賞している手堅い実力派。

第1歌集『夏引』(ながらみ書房 2000年) 第9回ながらみ書房出版賞受賞

第2歌集『直道(ひたちみち)』(本阿弥書店 2004年) 日本歌人クラブ北関東

                       ブロック優良歌集賞受賞

第3歌集『雷鳥』(ながらみ書房 2011年) 第17回寺山修司短歌賞受賞

 

   勿来には勿来の春が訪れて桜の花は白く咲きおり

   黄昏は誰の上にも訪れて心を淡く染めてゆきたり

   蝦蟇(がま)が螻蛄(けら)を食みいる様を眺めおり朝の眩しき光の中で

   人は生き人は死にゆくばかりなり夏草茂る縄文の村

   子のいない人生半ば思いつつ洗濯物のタオルを畳む

   夕空を流るる雲の影ひとつ 人はせんなきものと思えり

   十二月の満月のぼるひとときの心楽しも 四十四歳となる

   浅春の薬草園で出会いたる固き蕾の紅白の梅

   大島の団地の壁に映りたる雲の影ありしばし動かず

   とうけいと口ずさみたる人々の行き交う道に砂埃立つ

 

あげた10首からもわかるようにとりたてて珍しい歌や奇を衒った歌は

ない。生活の延長線上に歌があり、極めて自然体である。四十代の作者に

しては寧ろおとなしいくらいである。地味であるが滋味がある。

 

集中、〈時間〉を意識した歌が何首かあったのに注目した。たとえば

1首目の歌の「勿来には勿来の春が訪れて…」みたいな詠風。

「岬には岬の時間流れおり…」ともうたっている。

 

   卯月には卯月の神が綾をなす時間もありぬ金の時間を

 

なお、歌集題の『東京(とうけい)』は、明治の初めに東京を「とうけい」とも

呼んだことにちなむ。時間意識の濃い一集であった。

 

 

              令和元年9月30日 初版発行

                  2700円+税

               

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