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2020年2月 9日 (日)

同人詩誌「X (えっくす)」

    

      彼方への記憶

             中野  修

 

    昏い岸辺に最初の死がおりてくる

    まあたらしい分割へと時刻はつづき

    <春>への陣型を整えないまま

    胸のあたりの風どもと結びゆく

    切れぎれの音声が聴こえてくるのみの

    はるかな水際までもちこたえて狂いもせず

    蒼き闇を突いたししむらの形容をおとし

    ただ予感のみの動悸を肌のぬくみのようにおとす

    落ちゆく先ではまたわたし

    名称のみのわたしに行くさきはさえぎられ

    さえぎるあたりで途切れるのは迷彩の貌だち

    視野に戦ぐ未生の韻律は翔け

    分割への戦意をまたぐたびに偏よる母韻

    その方位アリバイのない躊躇は

    いっときの余裕にさえ古い重さをたたえる

    投降の寸前またのぼりつめてのち

    街路が崩れるまで

    断弦の切り口に私有はきざまれてある

    おそらく

    岸辺のくらみはみずからを明りとしてうきでて

     いるが

    飢えと異名のいろどりにもうひとつの軋み

    狂いつづける胎土に

    たちおくれる面ふかく必敗を序してゆく予感

    死者は無言歌はうたわない

 

       

        詩 カタログ 「X(えっくす)」

          発行者  三吉 伸一 

          発行日  1981年11月1日

 

 

 

 

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