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2020年4月22日 (水)

歌集『時雨譜』 菅原貞夫 砂子屋書房

「合歓」会員の第一歌集。

歌集題について、以下のように記している。

 

    (略)「時雨」の持っている地味で控えめなイメージが、ヴィオラの音色に

     通じているのかもしれない。いや、もっと言えば、私自身の性格そのもの

     かもしれない。

 

著者は、大宮フィルハーモニー管弦楽団や大宮GMTアンサンブルに入団している

だけあって、ヴィオラの音色が通奏低音のように流れる一集でもある。

ことに、選びぬかれた言葉の数々は古語や雅語、歌枕や枕詞がちりばめられ、

文語・旧仮名遣いの歌体と相俟って、その風姿が美しい。

 

     満開のソメヰヨシノも羨むかオホシマザクラふくらにて無垢

     みちのくの春まだ浅ききさらぎのこの日もちづき山家忌(さんかき)しぐる

     生活(たつき)とふ侮りがたき存在がわが愛(を)しむべき時を奪へり

     同じ火を見つむる人と思ひしが君は火影(ほかげ)の闇を見てゐし

     人の死はいつ来るものか白露の命なりけり けふ西行忌

     にぎたまの吐息を抱きて黙(もだ)しゐる月の器をヴィオラと言へり

     わが逝きしのちの見沼の水面にも今朝のむくげの風わたるらむ

     旅らしき旅もせで経し九十年 母の初旅、死出姿かなし

     これやこの「悪魔の三歳」天下とり十三番さん(ぢいさんばあさん)

     疲れ果てたり

     み空ゆく雲の使ひにさそはれて夢に夢見る旅枕かな

 

2首目の「山家忌(さんかき)」は、西行の忌日の陰暦二月十六日。

5首目にも「西行忌」のことがうたわれており、著者にとって西行は称賛すべき

一人でもあろう。

9首目、所謂〈孫歌〉であるが「悪魔の三歳」といい「天下とり」とは、言い得て妙。

 

本集には、批評精神の籠る「憂国時事辞(ジジジ)」があり、読んでいると溜飲が

下がる。

     原発とふ科学の花は死出の旅うれしがらせて泣かせて消さず

     再稼働に阿(おもね)るばかり恥づかしの身も蓋もなき忖度司法

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    

 

本集の、Ⅴ章には「私の好きな歌」と題して、22名の22首について鑑賞している。

なお、Ⅵ章には長歌9首が収められており、充実の第一歌集である。

 

 

             帯  久々湊盈子

             解説 久々湊盈子

           2020年4月12日 初版発行

             定価 3000円+税

 

 

 

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