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2020年5月27日 (水)

足立尚彦歌集『冬の向日葵』ミューズ・コーポレーション

「八雁」に所属する著者の6冊目の歌集。

10代、20代の頃は小説や俳句を志し、20代、30代では詩や音楽の

世界で頑張っており、その後、表現の舞台は短歌が中心になったと

「あとがき」に記している。

 

   もったいない生き方をしてもったいないおばけにもならず消えてしまえり

   掃除機で蜘蛛を吸ったがそのときの蜘蛛の苦痛に思いいたらず   

   殺されて切り刻まれて串刺しにされて焼かれて百二十円

   五十年使い慣れたるこの辞書のやぶれかぶれの我の老年   

   おひとりさまの老後資金を貯めきれぬままに老後を迎える予定

   もう何もかも歌えないことばかり 歌わないことは心地よい

   葬儀屋からの知らせで妻の十三回忌に気づきおりたり このでくのぼう

   死ぬことはわかっているが死んだ後誰が私をわかるのだろう

   白髪を黒く染めたよごめんなさい嘘つきですか罪びとですか

   「仕方ないじゃないか」とだけ言い残し妻の逝きにし夏がまた逝く

 

飄飄とした歌い口、妻を亡くした男の哀感がただよう。

2首目、「そのときの蜘蛛の苦痛」に思い至らなかった不甲斐なさ。

    その苦痛に改めて思い及ぶのだ。

3首目、四句目まで読むと何事かと胸騒ぐが、結句で安堵。要するにヤキトリなのだ。

6首目、「歌わないことは心地よい」とは、なんとかなしい言葉か。

    「歌えない」から「歌わない」への意思。

7首目、自身を「でくのぼう」と客観する余裕、笑ったあとのさびしさ。

 

 

巻末に収められている小説「冬の向日葵」をいっきに読む。

青春小説みたいな趣き。ぼくの名前は森田銀次、高校合格。

父親は森田タカビコ。会社を辞めて占い師になりたいと言い出す。

その後の顚末は、是非この小説を読んでほしい。

 

父親のタカビコは俳人でもあった。ぼくとオフクロに向かって言う

タカビコの言葉がなんとも味わい深い。

 

     「俳句は直感的なものなんだよ」

     「しょうがないなあ、二人とも。俳句は詩だよ。世界一短い詩だよ」

 

著者の足立尚彦氏は10代の頃、俳句を作っていたらしいので、この小説の作中の

タカビコの台詞も実感が籠っている。

 

 

            2020年5月27日 初版発行

              1800円+税

   

    

   

 

   

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