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2020年6月11日 (木)

歌集『傘』 御供平佶  ながらみ書房

平成4年から29年(73歳)までの作品405首を収めた第五歌集。

その25年間には、自身の退職があり、母の死があり、東日本大震災があり、

妻の手術、自身の白内障手術などのあった時期でもある。

 

    船の灯もまたたく星もなき夜の充つる熱気に全身浸る

    海を見に来しと受話器をおく闇に太平洋のしほさゐ響く

    うちあたり砕くる波の音が呼ぶ夜明けの海の声に微睡む

    東経一三八北緯三四御前崎の数字以下省略す

    みんなみの大地に生まれ北へ飛ぶ精霊蜻蛉また戻り来よ

    魚雷「回天」十メートルほどの黒塗りの挺身に小窓座席がひとつ

    日に幾度メールを呉れと言うメール無視した筈が酔余のすさび

    六十七歳のわが認識のいまさらにいのち儚し命は重し

    海に流す汚染の水が果てしなく地球をけがすその原子力

    日をあけず妻のベッドの傍らに何なすことのなきでくのばう

 

巻頭の「御前崎」一連は眼前の光景を写生したものが多く、骨太い。

小題「御前崎」・「身の若からず」・「手花火」・「地球自転」・

「夜明けの海」と続き、50首弱。よほど気に入った地だったか。

1・2・3・4首目はその折の歌。

5首目も御前崎での歌だろうか。結句の「また戻り来よ」に浪漫が滲む。

 

6首目の歌は、歌人の詠み甲斐 ? のありそうな素材。

もう随分むかしのことだが、「未来」の月旦で「回天」にはトイレが

ないという歌を巡って物議を醸したことがあったような。「回天」には内部構造が

生還すべき人間の乗るものとしての設計が施されていない ?

 

7首目、「酔余のすさび」で、メールをしてしまったのか。こういったヤワな歌は

愉しい。ニンゲンを感じさせてくれる。

 

8首目は、関東大震災の時の1首。ほんとうに「いのち儚し命は重し」を、

突き付けられ実感したのだ。

 

10首目、「でくのぼう」は作者自身。そのように認識すればもっともっと妻に対して

やさしくなれる筈である。

 

 

               国民文学叢書 589篇

               2020年5月30日発行

                 2500円+税

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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