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2020年7月21日 (火)

『ビギナーズラック』阿波野巧也  左右社

2012年から2019年につくった308首を、編年体で収めた第一歌集。

1ページ3首組・2首組・1首組と章によって組み方を変えているのが特色。

途中、ハサミを入れるキリトリ線があったのが謎?

 

    噴水がきらきら喘ぐ 了解ですみたいなメールをたくさん送る

    冬と春まじわりあって少しずつ暮らしのなかで捨ててゆく紙

    きみが青いリュックを抱いて眠りゆく電車でぼくは海を見ている

    どのかなしみも引き受けるからはつなつの回転寿司を食べにいこうよ

    百円硬貨落とせば道に花は咲く きれいな気持ちで死んでいきたい

    本の帯をいためてしまう愚かさで暮らしていくだろうこれからも

    まわらない寿司まわる寿司まわしてもまわさなくても変わらない寿司

    憂鬱はセブンイレブンにやって来てホットスナック買って食べます

    駅までの道を覚えていきながらふたり暮らしのはじまる四月

    いくつになっても円周率を覚えてる いくつになっても きみがいなくても

 

阿波野さんの歌は5首目のような一桝アキの歌が結構ある。

そして、上の句で描写をして、下の句で主観をのべるような歌の作り。(その逆もある。)

たとえば1首目の二句切れと、3句目以降のことば。3句目以下は別のことばでも繋がるのでは

ないか?などと言われかねない。

バランスと危うさ、そのせめぎあいのなかで成功している1首目ではないか。

「了解です」ではなく、「了解ですみたいな」ところが、現今の若者らしくもある。

〈断定しない〉ことは、多少の責任回避のようでもある。

 

ところで、1ページの歌の組み方を冒頭で紹介したが、1首組だから作者の自信作とか、秀歌とも

いえないような。ちなみにこの1首組のなかの歌はわたしの個人的な見解だが印象に残らなかった。

 

8首目の「憂鬱は」の簡略化された私(作者)。

ふつうは「憂鬱なわれはセブンイレブンにやって来て」とうたうところだが、「憂鬱」という

主体を前面に出すところが面白い。

1993年生まれ、若さが眩しい歌集である。

 

      秋の字の書き順ちがふちがひつつ同じ字となる秋をふたりは

          荻原裕幸『リリカル・アンドロイド』(書肆侃侃房 2020年4月刊)

      きみの書くきみの名前は書き順がすこしちがっている秋の花

                     阿波野巧也『ビギナーズラック』

 

荻原さんの印象深かった1首と、相似の歌を阿波野さんの歌集に発見して、

お二人の相似点を思った。

このたびの歌集の体裁(判型)や、片仮名書きのタイトル、そして表紙の装幀からも

感じたのだが……

 

明日は是非、荻原さんの『リリカル・アンドロイド』の歌に触れて書いてみたい。

きっとこのお二人は共通するような心情がたゆたっているのではないか?

 

そういえば、阿波野さん「塔」を退会している。

今後は同人誌「羽根と根」だけで、やってゆくのかしらん。

 

 

                帯  小山田荘平・斉藤斎藤

                解説 斉藤斎藤

                2020年7月30日 第一刷発行

                   1800円+税

 

 

 

 

 

 

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