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2023年6月24日 (土)

『翅ある人の音楽』 濵松哲朗  典々堂

本歌集『翅ある人の音楽』は、2014年の晩秋から2021年の終わりまでに

発表した作品のなかから420首を選び、収めている。

装幀が実に良い。渋くて華やか。これは装幀者・花山周子さんのセンスであり、

著者・濵松哲朗さんの歌からイメージされたものだろう。

1ページ3首組、2行書き。文語文体の歌には、この2行書きがふさわしい。

 

さて、巻末の略歴によると1988年生まれ。「塔」所属、のちに「立命短歌」と

「穀物」に参加。

2021年には評論集『日々の鎖、時々の声』を出版している。

この評論集については当ブログの2021年5月20日に、紹介ズミ。

 

    ①もうすこしうつくしくなるはずだつた器が誰の心にもある

    ②海沿ひに住めばやさしくなれさうな気がして、気がするだけで終はつて

    ③西口は東口より入り組んで僕の知らない雪どけがある

    ④マフラーを道の途中に外すときわれにひかりは春をともなふ

    ⑤絵葉書に切り取られたるみづうみの青、ほんたうのことは言はない

    ⑥冬に来る息の暴走 足掻いても足掻いてもなほ我といふ森

    ⑦蕁麻(いらくさ)のやうに両手をひろげればわたしの庭のとほい明るさ  

 

とりあえず7首選んでみた。

選びながら思ったことは、なんと「狷介孤高(けんかいここう)」な人なのか ? と思った。

自分の意志を固く持って、俗人から遠く離れて品格を保っている人、のような気がしたのだ。

従って、自身の内面を視つめた歌が多い。(疲れるだろうな、と思う。)

随分むかしのことだが、わたしは作家の高橋たか子が好きだった。

彼女の文章には崇高な精神が宿っていた。

このたびの濵松さんの第一歌集にも、高橋たか子的な精神が通奏低音のように流れている。

 

わたしは、この7首のなかでも、④や⑦には〈救い〉があるように思う。

精神が閉ざされていない。どちらかといえば、私は④や⑦の歌が好きである。

 

     ⑧面倒な人と思はれてゐるらしい 遮光カーテンぴつちりと閉づ

     ⑨吊り革が額をつつく 厄介なひとと思はれ出してうれしい

 

⑧・⑨とアンビバレンスな2首を並べてみた。

⑧の下の句「遮光カーテンぴつちりと閉づ」で、人を遮断している。

それに対して、⑨では「思はれ出してうれしい」とまで、うたっている。

「ホントかよ!」と、突っ込みたくなる。(そんなに強がらなくていいのに…)

 

     ⑩君の死後を見事に生きて最近のコンビニはおにぎりが小さい

     ⑪海老天のしつぽくらゐの寂しさで君は電話を掛けてきたのか

     ⑫非正規で生きのびながら窓といふ窓を時をり磨いたりする

     ⑬ともだちの死をともだちが告げてゐる連絡網のやうにLINEは

     ⑭こころは声にこゑは夜霧にながれつつなぐさめてくれなくていいから

     ⑮頻繁に猫に会ふから猫道と名づけて今日も抜ける猫道

     ⑯海に行かうと君に伝へたらもう満たされてしまふ気がして

     ⑰露地物の野菜はグレてゐると云ふグレてゐるから旨いのだと云ふ

 

⑩から⑰まで、純な、若者らしい歌を選んでみた。

「ああ、いいな、」と思う。しかし、こういう歌は〈濵松哲朗〉が詠まなくても、

誰かが詠みそうだ。

 

⑩の下の句の発見 ?   ⑪の「海老のしつぽくらゐ」の比喩 と、新しさがある。

⑭の強がりはせつない。⑰を読むと清濁併せ吞む大きさがある。

 

〈濵松哲朗〉が生きている世界が具体をともなって、うたわれている第一歌集『翅ある人の音楽』。

「重くれ」の歌が結構あったけど、濵松さんの力の入れようが、ビシバシと伝わってきた。

 

わたしは応援しています。

ついでながら「帯」の髙瀨隼子さんの文章、感動しました。

すてきな友人です。だいじになさってください。

 

           塔21世紀叢書第419篇

          2023年6月24日 初版発行

             2500円+税

 

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                  シモツケソウ(下野草) ①

 

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                  シモツケソウ(下野草) ② 

 

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                   ナデシコ(撫子) ①

 

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                   ナデシコ(撫子) ②

           

 

            

 

 

 

 

 

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